虚ろな情報の境界で

第一章:ノイズの始まり

その日、世界は壊れた。正確に言えば、世界に亀裂が入った。

後に「アビス」と呼ばれることになるその現象は、前触れもなく世界中の大都市に現れた。空間がまるで引き裂かれたかのような漆黒の亀裂。それは物理法則を無視して宙に浮かび、向こう側からは時折、この世のものとは思えない微かな残響が漏れ聞こえた。パニック、混乱、そして調査。人類がその亀裂の先に広がるものが、富と危険に満ちた異次元の迷宮であると理解するまでに、そう時間はかからなかった。

アビスの出現から五年。世界は新たな秩序と日常を再構築していた。

「――次のニュースです。昨日、新宿第弐アビスの第4階層で、未確認の敵性存在『コード:ノスフェラトゥ』との交戦により、探索者(シーカー)3名が重傷を負いました。政府の特務機関『Aegis(イージス)』は、該当階層の一時閉鎖を決定し……」

大学のカフェテリアに設置された大型モニターが、無機質な音声で世界の変容を告げている。周囲の学生たちは、そのニュースを一瞥するだけで、すぐに自分のランチや友人との他愛ないおしゃべりに意識を戻していた。もはやアビスの存在は、遠い国の紛争や、時折発生する大規模な自然災害と同じ、日常に溶け込んだノイズの一つでしかなかった。

黒羽快(くろば かい)もまた、そのノイズを聞き流す大勢のうちの一人だった。少なくとも、表向きは。

(コード:ノスフェラトゥ……か。また新しいのが出たな)

口にしたカツカレーはほとんど味がしなかった。快の意識は、ニュース映像の片隅に映り込んだ、破損したシーカーの装備品に釘付けになっていた。ひしゃげた金属、引き裂かれた強化繊維。その残骸から、彼は無意識に情報を読み取ろうとしていた。

黒羽快には、秘密があった。物や場所に触れると、そこに宿る「情報」の断片を読み取れる。それは映像や音声、あるいはもっと抽象的な感情の奔流として、脳内に流れ込んでくる奇妙な体質だった。古びたベンチに触れれば、そこに座った人々の会話の断片が聞こえ、古本を手に取れば、前の持ち主の感傷が流れ込んでくる。

あまりに不確かで、制御もできない地味な能力。日常生活では情報の洪水に酔うだけの厄介な代物で、彼は普段、極力物に触れないよう、薄い手袋を常用していた。

しかし、アビスが出現してから、この能力に変化が訪れた。アビスから持ち帰られた「遺物(レリック)」や、アビス内部で採取された鉱石に触れると、流れ込んでくる情報が格段に鮮明で、そして膨大になったのだ。まるで、世界に開いた穴が、彼自身の能力の蛇口をもこじ開けたかのように。

「なあ、快。聞いてる?」 「え? ああ、悪い。聞いてるよ、蒼士」

目の前から飛んできた声に、快は我に返った。向かいの席に座るのは、同じ学部の友人である緋山蒼士(ひやま そうし)だ。染めた銀髪を無造作にかき上げ、その鋭い眼光は獲物を探す猛禽類を思わせる。大学内でもその容姿と、他人を寄せ付けない雰囲気で有名人だった。

「お前、また上の空だったろ。シーカーの選抜試験、いよいよ来週だぞ。本当に受ける気か?」 「そのつもりだよ。準備もしてる」 「準備って、お前がやってるのって、体力トレーニングと古武術の型稽古くらいだろ。アビスはそんな生易しい場所じゃない。俺みたいに、Aegisの育成プログラムを受けてるエリートでも、命の保証はないんだぞ」

蒼士の言葉には、純粋な心配と、隠しきれない自負が滲んでいた。彼はAegisにスカウトされた特待生で、次世代を担うシーカーとして嘱望されている逸材だ。シーカーには、アビス内部の特殊な環境に適応できる「権能(アビリティ)」と呼ばれる異能の素養が求められる。蒼士は、身体能力を飛躍的に向上させる権能を持って生まれた、選ばれた人間だった。

一方の快は、権能を持たない一般人。ただの大学生だ。シーカーの選抜試験は、権能を持たない者にも門戸は開かれているが、その合格率は限りなくゼロに近い。

「分かってるよ。でも、行かないといけないんだ」 「……また、あんたの姉さんのことか」

蒼士が忌々しげに舌打ちした。

快の姉、黒羽澪(くろば みお)は、第一世代のシーカーだった。優秀で、常に周囲の期待を一身に背負っていた彼女は、三年前にアビスの深層で行方不明になった。公式発表は「探索中の事故死」。だが、快には信じられなかった。姉が遺した研究資料の断片、そして彼女の私物に触れた時に流れ込んできた、混乱と、畏怖と、そして何かを発見したかのような強い歓喜の感情。姉は事故で死んだのではない。アビスの奥で、何かを見つけたのだ。

それを見つけ出すこと。それが、快がシーカーを目指す唯一の理由だった。

「忠告はしたからな。死ぬなよ」 「お前もな」

短い会話を終えると、蒼士はトレーを持って席を立った。素っ気ない態度だが、彼なりの不器用な優しさなのだろう。快は一人、再び冷めたカレーを口に運びながら、来週に迫った運命の日を思った。

***

選抜試験の会場は、東京湾に浮かぶ人工島に建設されたAegisの巨大な本部施設だった。物々しいゲートを抜け、案内されたホールには、快と同じように人生の転機を求めて集まった若者たちの熱気が渦巻いていた。屈強な肉体を持つ者、最新鋭の装備に身を包んだ者、そして蒼士のように、内に秘めた自信を隠そうともしない者。権能を持たない一般参加者の快は、その中でひどく場違いな存在に思えた。

第一次試験は、体力測定と戦闘シミュレーション。最低限のフィジカルと、アビス内に巣食う敵性存在――通称「シャドウ」への対応能力を測るものだ。快は幼い頃から祖父に叩き込まれた古武術のおかげで、体力測定はなんとか基準値をクリアした。

問題は戦闘シミュレーションだった。仮想空間内で再現されたシャドウは、物理法則を無視した動きで襲いかかってくる。犬のような姿をした「シャドウハウンド」の群れ。快は支給された訓練用のナイフ一本で、その猛攻を凌がなければならない。

(ダメだ、速すぎる……!)

古武術の動きは、あくまで対人想定だ。四方八方から同時に、しかも立体的に襲いかかってくるシャドウの群れを相手にするには、あまりに分が悪い。シミュレーションのバイタルが危険域に達し、視界が赤く点滅し始めた。

(ここで、終わりか……?)

諦めかけたその時、ふと奇妙な感覚が彼を襲った。仮想空間。これはデータで構築された世界。ならば、この空間そのものに「情報」があるのではないか?

震える左手の手袋を外し、彼はシミュレーションルームの壁に触れた。

――瞬間、脳内に膨大な情報、意味不明な文字列の奔流が叩きつけられる。 System_Core_Matrix_ver.4.28... User_ID:Kuroba_Kai... Vitals:Critical... Enemy_Object:ShadowHound_x12... Parameter...

ノイズの嵐。だが、その中に、快は探し物を見つけ出した。シャドウハウンドの行動パターン。次にどこに跳び、どこから牙を剥くかの予測データ。それはコンマ数秒先の未来。

「そこだッ!」

快は情報の流れを信じ、予測される攻撃ポイントへとナイフを突き出した。空を切るはずだった刃が、確かな手応えと共に、飛び込んできたシャドウハウンドの眉間を捉える。一体、また一体と、彼はまるで未来予知でもしているかのように、最小限の動きでシャドウを仕留めていく。それはもはや戦闘ではなく、精密な機械が行う解体作業のようだった。

試験終了のブザーが鳴った時、快は息も絶え絶えにその場に膝をついていた。結果は、ギリギリの合格。

(これが、俺の戦い方……)

派手な権能はない。圧倒的な身体能力もない。だが、情報を読み解くことで、活路を見出すことはできる。快はかすかな手応えを感じていた。

第二次試験は、チームでの適性評価だった。合格者たちはランダムに3人1組のチームを組まされ、模擬アビスでの探索任務を与えられる。快が引き合わされたのは、意外な人物だった。

「また会ったな、雑草」 「蒼士……」

忌々しげに快を睨む緋山蒼士。そして、もう一人は、小柄な少女だった。透き通るような白い肌に、腰まで届く長い銀髪。大きな瞳は不安げに揺れていて、まるで迷子の子供のようだ。

「……白鐘(しろかね)、雫(しずく)。よろしく、お願いします」

か細い声で自己紹介した彼女は、Aegisの保護対象となっている稀有な治癒権能の持ち主だと、蒼士が小声で教えてくれた。

治癒師、前衛アタッカー、そして謎の一般人。なんともちぐはぐなチームの誕生だった。

「いいか、お前らは俺の指示に従え。特に黒羽、お前は足手まといになるな。後方で息を潜めてろ」 「……分かった」 「白鐘は、俺が傷ついたらすぐに治せ。それ以外は何もするな」 「は、はい……」

蒼士の独善的な指示に、快は反論せず、雫は怯えたように頷いた。チームワークなど、そこには欠片も存在しなかった。

模擬アビスは、本物のアビスから採取した物質を元に、その環境を忠実に再現した訓練施設だ。一歩足を踏み入れると、ひやりとした空気が肌を撫でる。壁も床も、まるで生きているかのように脈動する鉱石でできており、そこから放たれる不気味な紫色の光が、唯一の光源だった。

「行くぞ。目標は第三区画にある『擬似コア』の回収だ」

蒼士が先行し、快と雫がその後に続く。道中、数体のシャドウが出現したが、すべて蒼士がその驚異的な戦闘能力で瞬く間に片付けてしまった。彼の権能は、単純な身体強化でありながら、その練度は凄まじい。まるで嵐のように敵を薙ぎ倒していく姿は、頼もしいと同時に、快たちとの間に絶対的な断絶を感じさせた。

(こいつ一人で、十分じゃないか……?)

快も雫も、ただ蒼士の後ろをついていくだけ。任務は順調に進んでいるように見えた。第三区画に到達するまでは。

その部屋の中央には、目標である擬似コアが禍々しい光を放っていた。だが、それを守るように、一体の巨大なシャドウが鎮座していた。甲殻類のような硬い外皮、無数の複眼、そして巨大な鎌状の腕。一次試験で対峙したシャドウハウンドとは、明らかに格が違う。

「大型種……『ゲートキーパー』か。ちょうどいい、腕試しだ」

蒼士は臆することなく、その手に持つ特殊合金の長剣を構え、突進した。だが、ゲートキーパーの動きは、彼の予想を遥かに上回っていた。蒼士の剣戟を硬い外皮で弾き返し、カウンターの如く振り下ろされた鎌が、彼の肩を深く切り裂いた。

「ぐっ……!?」 「緋山くん!」

雫が悲鳴を上げる。 「白鐘! 回復を!」

蒼士が叫ぶが、雫はその場に立ち尽くしたまま、わなわなと震えているだけだった。その瞳には、目の前のゲートキーパーではなく、何か別の、恐ろしいものを見ているかのような恐怖が浮かんでいた。

「くそっ、何やってる!」

蒼士が悪態をつきながら、負傷した体で再びゲートキーパーに立ち向かう。だが、動きの精彩を欠いた彼が、敵の猛攻を凌ぎきれるはずもなかった。再び鎌が振り下ろされ、今度は彼の脇腹を抉った。倒れ込み、激しく咳き込む蒼士。もはや戦闘不能だった。

ゲートキーパーの複眼が、次なる獲物として、震える雫と、何もできずに立ち尽くす快に向けられた。

(死ぬ)

絶望が、快の思考を塗りつぶす。姉のことも、アビスの謎も、何も分からないまま、こんな場所で。

その時だった。快の視界の隅に、パニックで硬直している雫の横顔が映った。彼女が強く握りしめているペンダント。見覚えがあった。Aegisのデータベースで見た、シーカーが持つ認識票(ドッグタグ)だ。

(誰かの形見……? いや、それだけじゃない。この情報量は……)

快は無意識に、震える左手の手袋を外し、雫の肩にそっと触れた。彼女を守るためではない。ただ、その情報が知りたかった。

――瞬間。凄まじい濁流が、快の脳を蹂躙した。

悲鳴。絶望。血の匂い。 『雫! 逃げろ!』 若い男の声。彼女の兄だろうか。 『来るな! こいつは俺が……!』 ゲートキーパー。そうだ、今目の前にいるのと同じシャドウだ。 兄は雫を庇い、その鎌に貫かれた。真っ赤に染まる視界。自分の無力さを呪う慟哭。治癒の権能は、死者を蘇らせることはできない。目の前で失われていく命を、ただ見ていることしかできなかった絶望的な記憶。

それが、白鐘雫のトラウマ。彼女が力を振るえなくなった理由。

「――っ、ぁ……!」

他人の記憶の奔流に、快は激しく嘔吐いた。だが、同時に理解した。彼女を縛る恐怖の正体を。

ゲートキーパーが、ゆっくりとこちらに歩を進めてくる。死の足音。

(どうする? どうすれば……?)

蒼士は倒れ、雫は動けない。自分には、古武術と、この厄介なだけの能力しかない。

(情報を、読むだけじゃダメだ……!)

壁に触れてシャドウの動きを読んだ時のように。この状況を覆す情報はないか。 快は、床に、壁に、そして目の前のゲートキーパーそのものに意識を集中した。

ノイズ。ノイズ。ノイズ。 だが、その中に、一筋の光を見つけた。 ゲートキーパーの構造情報。その硬い外皮を構成する物質の組成。そして、その中に存在する、ほんの僅かな「歪み」。構造上の欠陥。本来なら繋がっているはずの情報が、僅かに途切れている箇所。右腕の付け根、第三装甲版の内側。そこが、こいつの弱点。

だが、分かったところでどうにもならない。あの硬い装甲を、訓練用のナイフで貫けるはずがない。

(いや……待てよ?)

シミュレーションの時、快は仮想空間の「情報」を読んだ。もし、この能力が、単に「読む」だけのものではなかったとしたら?

情報を「読む」。それは、対象の構造を理解すること。 ならば。

(その構造に、干渉することは……?)

まるで、天啓だった。 黒羽快の権能の本質。それは「情報閲覧」ではない。「情報編集」だ。

快は、自身の持つ訓練用ナイフに意識を集中した。その材質、硬度、分子構造。全ての情報を読み解く。そして、脳内で、その情報を書き換えるイメージを思い描いた。

(もっと硬く。もっと鋭く。この世のどんな金属よりも、鋭利な刃に――)

ナイフが、キィン、と微かに鳴った。見た目には何の変化もない。だが、快には分かった。その「存在」が、一時的に変質したことを。世界の理を騙し、偽りの情報で上書きされた、ありえない刃。

ゲートキーパーが、鎌を振り上げた。 その瞬間、快は地を蹴っていた。狙うはただ一点、読み取った弱点。

「うおおおおおッ!」

古武術で叩き込まれた、体重を刃に乗せる踏み込み。振り下ろされる鎌を紙一重で躱し、ゲートキーパーの懐へ。そして、変質したナイフを、弱点である右腕の付け根に突き立てた。

ズブリ、という鈍い感触。 まるで熱したナイフでバターを切るかのように、あれほど強固だったはずの甲殻を、刃が容易く貫いた。

ゲートキーパーが、金切り声を上げてのけぞる。致命傷ではない。だが、その動きは確実に止まった。

「今だ! 逃げるぞ!」

快は倒れている蒼士の腕を肩に担ぎ、呆然としている雫の手を引いて、出口へと走り出した。背後でゲートキーパーの怒りの咆哮が響いていたが、もう振り返らなかった。

***

模擬アビスから脱出した三人は、医務室に運び込まれた。蒼士の傷は雫が気を取り直して発動した治癒権能によって塞がったが、彼のプライドはズタズタだった。

「……なぜだ」

ベッドの上で、蒼士が絞り出すように言った。 「なぜ、お前がゲートキーパーに傷を負わせられた? あのナイフはただの訓練用だ。装甲を貫けるはずがない」 「……」

快は答えられなかった。自分の能力について、どう説明すればいいのか分からない。情報を書き換えるなどという、世界の法則を捻じ曲げるような力を、他人に話していいものか。

そんな三人の間に、一人の女性が入ってきた。ウェーブのかかった長い黒髪を一つに束ね、Aegisの白い制服を凛と着こなした、理知的な雰囲気の女性だった。その胸の階級章は、彼女が相当な地位にあることを示している。

「緋山一級、白鐘三級、そして……黒羽快くん。選抜試験、お疲れ様でした」

その声には、有無を言わせぬ響きがあった。

「私がAegis日本支部、作戦司令本部長の天城(あまぎ)京香(きょうか)です」 「天城、本部長……」

蒼士が驚愕の声を上げる。Aegisのトップが、なぜ一介の訓練生の元へ?

天城は蒼士を一瞥した後、その真っ直ぐな視線を快に注いだ。 「君と、少し話がしたい。二人だけで」

有無を言わせぬ口調に、蒼士と雫は促されるまま医務室を出て行った。静かになった部屋で、天城は快の目の前の椅子に腰掛けた。

「単刀直入に聞きます。黒羽くん、君はゲートキーパーに何をしたの?」 「……分かりません。無我夢中で……」 「嘘は結構。君が使った力、それはおそらく『情報干渉』系の権能。極めて稀で、そして危険な力よ」

天城の言葉に、快は息を呑んだ。彼女は、知っている。

「君のお姉さん、黒羽澪も、その力の片鱗を持っていた」

姉さんの名前。その言葉が、快の心を激しく揺さぶった。 「姉を、知っているんですか!?」 「ええ。彼女は私の部下だった。そして……最高のシーカーだったわ」

天城は、懐かしむように目を細めた。 「澪は、アビスの正体に気づきかけていた。あそこは単なる異次元迷宮じゃない。彼女は『世界のソースコードが剥き出しになった場所』と表現していたわ。そして、その情報を書き換えることで、現実すら改変できる可能性に気づいてしまった」 「……!」 「彼女は、その危険な真実を探るために、単独でアビスの深層へ向かい、消息を絶った。私たちは、彼女がアビスの情報奔流に飲み込まれて『消滅』したと結論づけている」

消滅。それは死よりも、もっと空虚で、絶望的な響きを持っていた。

「君の力は、お姉さん譲りなのね。いいえ、あるいはそれ以上かもしれない。君には、自分の意志で、限定的に情報を書き換える才覚がある」 「……」 「黒羽快くん。君を、本日付でAegisの正式なシーカーとして採用します。これは命令よ」

それは、拒否権のない宣告だった。

「君には、緋山一級、白鐘三級と共に、特務チームを結成してもらう。君のその未知の力が、私たちの切り札になるかもしれない。そして……君が望むなら、姉さんが辿り着こうとした真実への道を、開いてあげてもいい」

天城の瞳の奥に、冷たい光が宿っていた。彼女は快を利用しようとしている。それは明らかだった。だが、快に断るという選択肢はなかった。姉が求めた真実。その先に何があるのか、この目で見届けるまでは。

「……分かりました。やります」

快は、覚悟を決めて頷いた。

こうして、黒羽快のシーカーとしての日々が始まった。 情報を読み、世界を欺く力を持つ少年。 圧倒的な戦闘力を持ちながら、協調性に欠ける少年。 過去のトラウマに縛られ、強大な治癒能力を振るえない少女。

歪で、不完全な三人が組んだチームは、やがてアビスの深淵を揺るがす存在となる。 だがそれは、まだ誰も知らない未来の物語。

虚ろな情報の境界で、少年少女たちの戦いが、今、幕を開けた。

コメント

タイトルとURLをコピーしました